北米最大のVTuber事務所「Vshojo」崩壊、何があったのか

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2025年7月、北米最大のVTuber事務所「Vshojo」が、人気タレントによる告発をきっかけに、わずか数日で事実上の崩壊した。「タレントファースト」という理念を掲げ、多くのスター配信者が集った夢の場所で、一体何が起きていたのか。

VTuber事務所「Vshojo」とは?

Vshojoは、Twitchの創設当時の技術スタッフであるジャスティン・イグナシオ(通名:Gunrun)によって2020年に設立されたVTuber事務所だ。その最大の特徴は、タレントが自身のキャラクターIP(知的財産)を所有し、配信による収益の大部分をタレント自身が得るという、当時としては画期的なビジネスモデルにあった。

事務所はグッズ販売やスポンサー案件から収益を得ることで、タレントのクリエイティブな自由と高い報酬を保証すると謳った。この「タレントファースト」の理念は多くのクリエイターとファンに支持された。

さらに日本の大手事務所ホロライブで活躍した経歴を持つksonの加入は、Vshojoの名を英語圏から日本へと一気に広める原動力となった。その後も人気タレントを次々と移籍させ、獲得し、英語圏におけるトップVTuber事務所としての地位を不動のものとしていた。

消えた50万ドルのチャリティ寄付金

順風満帆に見えたVshojoの評価が地の底へと突き落とされたのは、2025年7月22日のことだった。

所属VTuberの中でも絶大な人気を誇るアイアンマウス(Ironmouse)が、「Why I left VShojo(私がVshojoを辞めた理由)」と題した動画を公開。その中で、自身が2024年に行ったチャリティ配信でファンから寄せられた約50万ドル(当時のレートで約7,400万円)もの寄付金が、1年以上経ってもVshojoから寄付先である免疫不全財団(IDF)へ支払われていないと涙ながらに告発したのだ。

アイアンマウス自身も分類不能型免疫不全症(CVID)という難病と生まれた頃から闘っており、過去にIDFから経済的な支援を受けた経験を持つ。彼女にとって、このチャリティは単なる活動ではなく、命の恩人への恩返しであり、同じ病に苦しむ人々を救うためだった。その善意の結晶が忽然と消えたという事実は、ファンに計り知れない衝撃と怒りを与えた。

この告発を皮切りに、所属タレントたちが次々とVShojoの不正を告発した。多くのタレントはスポンサー料やグッズ収益の未払いだったことが明らかになり、一斉にVshojoからの脱退を表明。北米最大のVTuber事務所は、文字通り一夜にして崩壊した。

なぜ悲劇は起きたのか

疑惑の渦中、7月25日にCEOのGunrunは声明を発表。資金難から事務所を閉鎖(その後、倒産手続きを開始)することを告知するとともに、問題の核心であった寄付金について、会社の運転資金として流用したことを認めた。

しかし、Gunrunは「その資金がチャリティ目的のものだったとは後になって知った」と釈明。事務所を挙げてプロモーションされたチャリティ配信をCEOが認知していなかったという弁明は到底受け入れられず、火に油を注ぐ結果となった。

ではなぜ、トップ事務所が寄付金にまで手を付けなければならなかったのか。元所属タレントたちの証言から、その歪な経営実態が浮かび上がる。

1. 破綻していたビジネスモデル

配信収益のほぼ全てをタレントに還元するモデルは、事務所の収益源が不安定なグッズ・スポンサー収入の一部に限定されることを意味した。欧米の視聴者はアジア圏の視聴者と違い、グッズをあまり購入しない。運営費を賄うには、このモデルは持続可能性が低かった。

Vshojoのタレント、特にksonはたびたび日本の大手事務所のモデルを「搾取的」と批判することでファンからの支持を集め、VShojoもそれを黙認していた。だが、その結果、自らが作り上げた世論によってビジネスモデルの転換ができない袋小路に陥っていた可能性は高い。

2. 名ばかりだった「タレントのIP所有」

「タレントがIPを所有できる」という看板も、実態は異なっていたようだ。事務所の貴重な収入源であるグッズ展開などをタレントがVshojoを介さずに行うことには厳しい制約があったとみられている。

実は半年ほど前から最初の綻びが見えていた。(元にじさんじEN 狐坂ニナ)所属マタラ・カンの卒業からである。表面上は卒業扱いとなっているが、解約解除であったことは誰の目にも明らかであった。これはマタラがVShojoを介さずにグッズを販売したからではないかと言われている。

マタラは過去に YouTube 登録者数110万人以上を誇るストリーマー Bricky とグッズの販売契約をしたことを公言、旧WMEともタレント契約を交わしていた。これはVshojoのグッズの品質が悪く、なかなか送られてこないことと、イベントの質劣悪で回数も少ないというファンの不満に答えたものである。マタラはVshojoとこのことで揉めた末、契約解除に至ったのではないかとファンの間ではもっぱらの噂であった。

また、VShojo崩壊後、アイアンマウスが自身のオリジナル楽曲を自由に使えないことを配信上で語った。IP所有のメリットは極めて限定的だったことが伺える。

3. 機能不全の組織と無計画なCEO

元所属タレントのGEEGA(ギガ)は、事務所内に仕事をせず一日中ゲームをしているだけの「お友達社員」が複数人いたと証言。タレントへのサポートは名ばかりで、その負担の多くがタレント自身に押し付けられていた。 さらにCEOのGunrunは企業財政に無頓着だったとされ、1枠あたり1日40万円もする新宿駅のデジタルサイネージ広告をフロア一面に長期間打ち続けるなど、無計画な投資で資金を浪費していたことも指摘されている。

YouTube – VShojo Ignored GEEGA’s Advice

VShojo は約30〜40人の社員を抱える企業であった。日本の大手事務所と比べ規模がだいぶ小さいように思われるかもしれないが、2D、3Dのモデルはほとんどがサードパーティに委託しており、自社の3Dスタジオも存在しなかあった。3Dライブイベントも自社資金で行ったのが一回のみで他はタレントの持ち出しともっぱらボランティアに頼っていた。

4. 沈黙を強いた「秘密保持契約(NDA)」

これほど深刻な問題が長期間表面化しなかった背景には、タレントに課せられた過酷なNDA(秘密保持契約)の存在があった。元所属タレントのSilvervaleは、自身だけでなく母親にまでNDAへの署名を求められたと証言しており、この強固な緘口令がタレントたちを縛り付け、被害を深刻化させた一因となった。

英語圏VTuber業界に残された深い傷跡

Vshojoの崩壊は、ただでさえ縮小傾向にあった海外VTuber市場において、ファンの間に企業や事務所そのものへの根強い不信感を植え付けてしまった影響は計り知れない。

VTuber ファンの間では嫌儲思想が蔓延り、企業所属というだけで嫌悪感を抱くファンが急増してしまっている。VTuber という文化は今後も続いていくと考えるが、新規参入企業にとってはより一層厳しい状況だ。

おわり

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